ニハトリノオヤコ

筑摩の青木さんがネットで見つけてくれた戦前の絵本『ニハトリノオヤコ』が届いた。

版元の児訓社は、戦後『新寶島』を出した育英出版の別名義で、育英出版では参考書や先生向けの指導書(いわゆるアンチョコ)を、児訓社では子ども向けの絵本類を出していた。住所は東区(現中央区)神崎で、戦後の育英出版があった十二軒町の西隣。
この本をわざわざ買ったのはほかでもない、著者として近藤健児の名前があったからだ。近藤健児は、児訓社出版部長で戦後育英が出した雑誌『ハローマンガ』や『新寶島』にも深く関与している。その後、『大阪日々新聞』文化部長になり、酒井七馬に「歴史は女でつくられる」を連載させている。ただ、どういう経歴の人物なのか、私は今のところ知らない。戦前に酒井七馬の絵で『ドウブツ』という絵本を書いたことなどのデータはあるが、肝心の『ドウブツ』は未見だ。
さて、初めて近藤健児名義の本を手に入れてみて、近藤が児童教育に熱心であったことはなんとなくわかった。奥付には編著者となっているので、編集者であり同時に子ども向けの文章を書いていたのだろう。品のある良い文章で、わかりやすい。テーマもはっきりしている。もう少し本を見つけ出さないといけないのだが、近藤が関わったことで『新寶島』が単なる子どもマンガではなく、高邁な精神に裏打ちされた戦後の民主日本の小国民に向けた「新しい時代の児童書」として企画された可能性が出てきた。
それにしても描き版の製版技術(描き版を印刷技術とするのは誤りである。描き版は製版技術であり、印刷方式は主に平版オフセットに利用されている)の素晴らしさには目を見はるものがある。「粗悪な描き版」と言われるが、これは描き版が粗悪だったというのではなく、描き版の中でも粗悪なものという意味だ。大きさはB5で、当時大阪では主流だったB6横長スタイルの絵本に比べて高級感もある。