打ち合わせ

久々の夏空。

ブラック・ジャック ザ・ミステリー」の解説を書く。

昼は「うな正」。今年のうなぎは成育がよろしい。

1時から「ルノアール」で祥伝社の水無瀬さんと打ち合わせ。新書を1冊書くことが決まった。まだこれから章立てをつくらないといけないので、テーマは伏せておくが、マンガ関連ではない。マンガ以外のテーマで本を書くのは『球団消滅』以来のことだ。やったぜっ、て気持ちだ。ライターとして相当気合いが入っている。
「ライターは学者ではない。ひとつのテーマに固執していたらあかん」と言ったのは、恩人であり恩師でもある『月刊SEMBA』の廣瀬編集長だ。言われたのは「マンガ王国の興亡」(のちの『手塚治虫と路地裏のマンガたち』)の連載が終わって、次の連載をどうするか、という話になったとき。私が「手塚治虫の少年時代」というテーマを出すと、編集長は「これではあかん」と企画書を突っ返して、そうつけ加えたのだった。企画は、関西の街や、戦争の経験が天才マンガ家にどんな影響を与えたのかを証言に基づきながらたどる、という内容だった。たしかに、編集長の言うとおりひとつのテーマにこだわっている自分がいた。そこで、いったん持ち帰って新たな企画として「地場産業の街」というプランを立てた。関西の地場産業「街」を切り口にして毎回一カ所ずつ追うルポルタージュ・シリーズである。今度は、すぐにOKが出た。その編集長のアドバイスが効いたのだろう、自分で言うのも何だが読者の反応もまずまず好評だった。「地場産業の街」は、『手塚治虫と路地裏のマンガたち』刊行を巡るいろいろで『月刊SEMBA』から出入り差し止めになったために中断したが、今思い出しても楽しい仕事だった。
 その後、廣瀬編集長とは疎遠になったが、編集長の言葉は忘れていない。だから、このところ出す本がマンガ関係ばかりになっているのは、「ちょっとまずいなあ」とずっと思っていたのだ。マンガ以外のテーマで書き下ろしの注文がうれしいのは、そのためだ。この勢いを、もう一本、今準備中のあれにもうまくつなげられるといい。マンガ以外で何冊か書けるようなら、ライターとしての仕事の幅も出てくるのではないかと思う。
もちろんマンガ関係の仕事は好きだし、ライターとしてこれからもマンガには関わっていきたい。編集もする。しかし、私はマンガが好きなライターであって、マンガ研究者やマンガ評論家、マンガ学者ではない。第一、学究の人々のように真摯な態度でマンガに向かい合ったことがない。あくまでもライターとしての興味からマンガやその周辺を取材しているだけなのである。
「基本はライター」ということはずっと肝に銘じている。ライターの部分がおろそかになってはまずいのである。去年、京都精華大学の吉村さんと松井さんに「毎週講義をするのは無理」と伝えたのも、学究の徒でない私がレギュラーの先生になるのはまずいと考えたからであり、もうひとつにはライター業に差し障りがあっては困るからだ。期限付きとは言えレギュラーの先生を断ったからには、同じような機会は今後ないものと考えているし、そのつもりでこの1年間はライター業や編集業に力を入れてきた。マンガ以外の記事もずいぶん書いた。でも、本が出せるというのはまた格別なのだ。好きなのだろうなあ、本を書くのが……。資料はかなりあるし、アイディアや取材計画も頭の中にどんどん浮かんでいる。1月末に書き上げて、春には出すので、乞うご期待。