長井さんのこと

ゲゲゲの女房』で、『月刊ゼタ(つまりガロ)』に原稿を持ち込んだ少女マンガ家の春子が、長井さんから「あなたらしさがない」と言われるシーンがあった。同じようなことを、もう30年以上も前に、当の長井さんから言われたことがある。和歌山の下宿で描いたマンガを持って、在来線を乗り継いで東京に出て、猿楽町の木造モルタル青林堂に持ち込んだときのことだ。伸坊さんが編集長の時代だったはずだが、偶然長井さんがいて、原稿を見てもらったのだ。
「あなたは手塚さんやダンさんがお好きですね」
「はあ」
「絵を見ただけでわかりますよ。でも、これではマンガ家にはなれませんね」
「あの、絵が下手ですか」
「そうじゃなくて、手塚さんの線やダンさんの癖が染みついていて、自分の絵じゃない。たとえば、この人のマンガはどう思いますか」
「……絵がおそろしく下手ですね」
「……それじゃあダメだ。あきらめなさい。この人の絵には下手だという個性がある。読者をひきつける下手さです。それがわからないなら無理です」
細かなニュアンスは忘れていて、どうしても、ドラマの中の役者さんの口調になってしまうのだけど、このときに見せられたのは川崎ゆきおさんの原稿だった。あたしは川崎さんのファンなので他意はない。そのときは川崎さんの価値に気づいてないバカな男の子だったのである。これをきっかけにマンガ家をあきらめて、ぐるぐる回り道をして、今は文章を書いてくらしている。今書いているものも、たぶん、長井さんからは「個性がない」と言われるのだろうけど、川崎さんの価値はわかるようになった。


昨日書き始めた、堀田さんのインタビューの続き。たしかに、堀田さんは語り口にも個性があるなあ、と感心する。そう言えば、今日の『ゲゲゲの女房』にはこんなセリフもあった。「才能って残酷ですね」。
削っても削っても予定5枚が7枚になった。デジタルの世界ではあまり文字量は気にしなくていい。ギャラは同じなので単価が減るだけ。

昼は「江戸っ子寿司」。

午後は、週末締め切りの解説2本のうち『シードラゴン』の解説4枚を書く。

明日は、神保町シアターでやっているクレージーの「怪盗ジバコ」の12時からの回を見て、明後日は午前中ブックフェア、午後はデジタルコンテンツ白書編集委員会。金曜の夜は家のもののつきあいで森昌子コンサート。