猿翁さんのこと

先代の猿之助さん(現・猿翁)には、まだお元気な頃に「ダ・ヴィンチ」の特集インタビューのために、軽井沢の稽古場でお目にかかっております。
ちょうど、スーパー歌舞伎三国志3」の稽古中で、質問の中で「今回はどの場面で本水使用を見せていただけますか」とお聞きしたら、「今回はありません」とおしゃったので、「それは残念です。私などはあれを楽しみに・・・」などと、余計なことをくだくだと申してしまいました。すると、猿之助さんは少し考えてから、「わかりました、お客様が望むことをやるのがスーパー歌舞伎です」と。
公演が始まった時に、小生と編集部のIさんは演舞場にご招待を頂き、休憩時間には楽屋に招かれ、途中、松竹の方が舞台裏の本水使用のためにセットされたパイプなどを見せてくださったのです。楽屋では猿之助さんが直々に迎えてくださって、「ありがとうございました。あなたのかげで舞台は大成功です。次の幕で水を使いますので、どんなふうになったのか、ぜひ楽しんでください」と。
なんと器の大きな方だと、私は震えてしまいました。
あとは何をお話したのか覚えていませんが、終幕での宙乗りには「澤瀉屋!」という掛け声が、自然に出てしまったのでした。
信じてもらえないかもしれませんが、実話です。